こんにちは、スッキリシリーズ著者の中山です。
10月〜11月の2ヶ月間にわたり開催されております、スッキリわかるシリーズ10周年記念祭。著者陣としても、編集長も知らなかったような蔵出し製作秘話を書中登場キャラにからめつつ、もふもふっと毎週お届けして参りまして、前回はこの方でした。
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スッキリスト秘話(3) 立花いずみ 編
こんにちは、スッキリシリーズ著者の中山です。 10月1日から11月末まで開催中のスッキリわかるシリーズ10周年記念祭、調子にのって「週次で裏話紹介します!」なんていってしまったことを早くも後悔しはじめ ...
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大変おまたせしました!
本日は、キャラ人気 第1位(中山調べ)のこの人です!
株式会社ミヤビリンク
ソリューション本部
流通第1システム部
NextepBooksプロジェクト
リードアーキテクト 兼 PM補佐
大江岳人の出演作品
一瞬でデザインが決まったキャラクター
スッキリわかるJava入門の続編である「実践編」で登場する新しい先生、それが大江岳人です。菅原拓真と同期入社で、互いを信頼しながらも、菅原とは違う道・・・より「現場」に近い世界・・・を歩んできた「もうひとりのJavaの先生役」キャラクターとして、実践的知識を紹介していく役割を担っています。
この大江さん。著者としては、各種の設定や設計がこんなに楽だったスムーズに進んだキャラはいません。スッキリスト秘話(2)でご紹介した「湊と朝香のキャラ設計の大変さ」と比較すると、もう瞬殺。
まずはキャラクターの見た目のデザインです。いつも「こんなかんじで...」っていうのを、担当イラストレーターの高田ゲンキさんに送って具現化してもらうのですが、たしかあれは10年前(遠い目)...
ぐらいしか言った記憶はないのですが、、、、 「こんなんですか?」的なラフスケッチが高田さんからすぐ届いて、
えぇもう、俺が求めていたのは、まさにこのカッコよさですよ1。
名前も一瞬で決まった大江さん
「見た目」の次に決めることがおおい「名前」についてですが、実は「スッキリわかるJava入門」のために菅原拓真を考案したときに、「もし仮に続編を書くなら大江」と決めていました。
菅原拓真の名前の由来は、スッキリスト秘話(1)でご紹介の通り、湯島とか太宰府とかに在しますお方です。このお方、まだ人間だったころ、現役時代はバリバリ国の中枢を担ってたそうで、特に「重要な人材を育成する機関」の1つである文章院(もんじょういん)という組織のトップは代々菅原家がやっていたそうです(wikipediaからの受け売り情報)。
この文章院、実は菅原氏とともに代々トップとして経営してきた学者の家がもう1つありまして、それが「大江氏」だった——これが「書中で菅原拓真と対照的かつ背中を預け合う関係の同期の先生」の名前の由来です2。
「持ち込み企画」だった実践編
この大江が登場する実践編ですが、全17章は、前半(9章まで)と後半(10章以降)に大きく分かれます。前半部では、Java自体の少し深いところを菅原と学ぶのですが、後半になると大江が登場し、テストやメトリクス、Gitやアジャイルなどを学ぶことになります。
上記は第3版の帯なのですが、ご覧の通り後半部は「Java言語自体」ではなく、ツールや技法、概念など「Javaを使う開発現場で、これらも少しずつ知っておくことで活躍できる度合いが断然変わってくるJava周辺知識」について、各分野の分厚い専門書の「さわり」の部分を集約したような内容なのですが、その所々でちょいちょい「大江節」が炸裂するのも本書の特徴です。
たとえば、チーム分業を学ぶときには...
テストを学ぶときには...
ほかにも特製スタンプ画像にもなってる「俺たちは、こういうのは完成とはいわないんだ。」のように、ちょっと厳しい(でも大切なこと)や、現実的な制約を語ったりする、ネクタイ緩めのちょっとカッコいい先輩がでてくる謎なJava入門書...。っていうか「Java入門といいながら、Java入門が半分しかないっていう本」は当時、類書としてもありませんでしたので、こんな変な企画を持ち込まれた出版社はたいそう困ったと思います3。
ただ、当時まだ今より10歳も若く、おなかも出てなかった中山としては、どうしても書きたかったんでしょうね。リンクするのもちょっと恥ずかしい実践編出版当時(9年前)の著者ブログ記事を読み返しながら、いろいろ思い出します。
時代と共に変化する「先生の悩み」
そんなこんな経緯を経て、2012年、不思議系Java入門書2冊セット(入門編・実践編)が爆誕したわけですが、うち実践編については、「学び手」だけではなく「先輩などの指導者の方の役に立ちたい」という想いもあったこと、その背景に私がSEとして最も長くかかわった中央省庁の大規模プロジェクト時代の実体験4があったことは、当時の別のブログ記事にも残っています。
ただ、さらにその背景にあったのは、私自身もひとりの講師として、毎年登壇するなかで感じていた「講義実施側としての課題が、少しずつ変化しつつある」という嫌な予感でした。
私たちIT講師が最も恐れる現象のひとつに、「スキル分断」があります。あるクラスに複数の受講者がいるとき、そのスキルの差が大きくに開いてしまう(二極化する)現象のことを指しますが、ある一定以上に広がると単独講師での講義継続が不可能に陥ります(低スキル者にあわせて講義をすると高スキル者が暇をし、逆だと低スキル者を絶望の淵に追い込むからです)。
ただ、スキル分断の本当の怖さは、そこではありません。
プログラミングのような類のものには、「スキルがある人は、わかるし、書けるし、楽しいから、より上手になる」、「スキルが(まだ)ない人は、わからないし、書けないし、苦しいから、ますます上達しない——」という性質が特に強く表出します5。つまり、2人以上の学び手が集まってプログラミングの学習を行えば、自然にスキルは分断していく(そしていつか講義が破綻する)のが宿命(さだめ、と読んでください)なのです。
だからこそ、私たち講師は常に、「スキルの差が開く傾向・前兆を早め早めに把握して、テコ入れすること」を重視していたのですが——。
その後、急激に世の中は変化しました。
私が現役SE時代、地味でオタクな職業とみられていた「プログラマ」が、今や子供のなりたい職業第3位とか、何の冗談かと思いますが現実です。多数開講するプログラミングスクールはどれも盛況で、小学校1年生が夏休みの自由研究でScratchを使ったガチなパズルゲームを作って持ってきちゃう時代になりました。
IT研修にも当然変化が起きます。20年前の新人研修はほとんど「まったく初めてです」という人ばかりでしたから、「未経験者向けの解説」をやればよかったわけですが、今は受講者の中に「Pythonなら少し書いたことがあります」という人は珍しくなく、数名「githubにレポジトリあるんで、レビューしてくれませんか」的な人がいたりします。完全未経験者からガチ勢まで、本当に、いろんな受講者の方が1つのクラスの中にいらっしゃいます。
つまり、「差が開き始めないようにテコ入れ」どころか、「研修スタート時点で既に、ガッツリ差が開いてる」んです。
迫られる「三正面作戦」。そのとき講師は——!
ただですね、だからといって「まだ幼いのにScratch学ぶな」とか、「まだプログラムもまともにかけないのに、Githubとかやるんじゃない」っていうのは絶対に違うと思うんです。本人が楽しい、学んでみたいって思うのならば、小学生だろうが幼稚園児だろうが、Linuxカーネルのレポジトリにプルリク送ってもいいと思うんですよ。
とはいえ、ですよ。
このことは、体が1つしかない指導者が教室内で、
① 「理解できなくて苦しんでいる学び手」
② 「普通の学び手」
③ 「とっくに理解していて暇している学び手」
の三正面作戦に多かれ少なかれ追い込まれることを意味します。この状況では、どれかに講師が解説をフォーカスをすると、他が「やることないなー。ひまー(ぼけ〜)6」と待ちぼうけをしてしまいます。
この「三正面作戦」の状況、私もかなり悩んだのですが——、5年ぐらい前だったでしょうか。いろんな先生たちとお話するなかで、ある先生にテクニックを教えていただいたんです。
その先生いはく(大江節で)
その先生は、講義にはスッキリではなく研修企業のオリジナルテキストを使われているのですが、副読本としてスッキリの入門編と実践編をお渡し頂いているとのことでした。そのうえで、以下のようにして講義進行を制御する、というのです。
とある先生の超指導法
- 余裕層20%は、講義参加は任意7としつつ、「実践編」を先に渡す。必ず初めて見る技術の章があるから、その内容を独自に学んでもらったり、その技術を使ったアプリを作るなど、より高度で発展的な世界を「大江先生」に水先案内をさせる。
- 苦戦層20%には、「入門編」を自宅に置いてもらい、夜間や土日の復習やキャッチアップができるようにする(会社にテキスト、家にスッキリの置き勉を可能にする)。昼真の講義は苦戦していても、自分のペースでゆっくり理解を深めたい人もいるし、違う講師(=「菅原先生」)による別アプローチ・別のたとえで理解が進む人もいる。
- 中間層60%は、比較的スキル状態や環境が似ているので、おちついて講義を行う。
私が、「え... でもやっぱ、苦戦している20%層を見捨てるなんて、可哀想じゃないですか?」というと、また「大江節」でいうんです。
仮に講義を苦戦層20%に完全にあわせたら、当然、彼等の理解は進む。だが、同時に「残り80%の受講者が手持ち無沙汰になったこと」について、彼等は自分たちを責めたり、居づらさを感じてしまうと、彼は言うのです8
一方で彼は、上下20%への「講義時間外」での目配り・心配りはとても手厚くし、決して手を抜かなかったそうです。昼真の講義は「たぶん半分ぐらいしかわかってないな」とか、「苦しんでるなぁ...」という様子が見て取れても、戦意を失っていなければ、「がんばれ...がんばってくれ....」と心の中で思いながら、60%の学び手に向けて講義を進めたとのこと。「彼等なら、このあと菅原講師と復習して、少しずつ追いついてきてくれる」と、信じて励まし、ときに手助けすることを続けることで、学び手もそれに応えてなんとか喰らいつこうとしてくれる、と。大江さんと発展的なことを学んだ20%の熟練者にも、必ずみんなの前で発表してもらいクラスからの驚きと賞賛を持ち帰ってもらうようにしているそうです。
そして最後の言葉。「あなた実は大江さんですか?」っていうぐらいカッコよかったので、よく覚えています。
——確かに如何ともし難い現実的制約として、講義の時間は「すべての学び手に等しく固定」であって、一方、受講者のスキルには「それぞれに違いがある」。その制約の中で、私たち指導者が「本当に達成しなければならないこと」は何なのか——。
当時、結構な衝撃を覚えた記憶があります。
そういえば私には、2人の「よく知るJavaの講師」がいる。そして、2冊の本さえあれば、いつでも彼等を講義の場に「召喚」できるし、状況の異なる学び手に対して指導にあたってもらうことができるじゃないか。
そう気づかされてから、勝手に「文章院フォーメーション」と名付けたこの手法を時折用いていましたが、特に2020年の春の新人研修(コロナ急襲&緊急リモート切り替えの中での講義)で大いに助けられたことは言うまでもありません。
先生も、人だから。
研修の場で、ときどき「中山先生」と呼びかけられることがあると、よく「中山さんでいいですよ。」と返します。
別に国が認めた教員免許を持っていたり、司法試験の難関をくぐり抜けたわけでもなく、いってしまえば「そのへんにいる、IT業界の人」に過ぎません。
仮に、周囲から見たときに私が「先生」であったとしても、
- 「わからないこと」もあるし
- 失敗することもあるし
- 失敗してはじめてなにかが分かることもあるし
- 研修初日の前夜は緊張しておなか痛くなるし
- 体は1つだから、全員に完全にフィットする解説はできない
そんな存在です。
でもだからこそ、悩んだり、試行錯誤したり、より明るい未来に近づこうと努力や工夫9をするのかもしれません。
大江岳人も、もし「大江先生!」と呼びかけられたら、笑いながらきっとこう言うでしょう10。
現に今、君たちから学んでいる。
IT技術も人材育成技法もめまぐるしく変化していく昨今、私たち指導者が学ばなければならないものは、まだまだ尽きそうにありません。
日々「学び続ける先生方」のお役に少しでも立てるよう(ひいては学び手の皆さんの笑顔に繋がるよう)、『スッキリわかる入門シリーズ』も絶えず進化を続けて参ります!
最後までお読みいただいた皆様へのお礼
大江岳人のスタンプは、特設サイト(10月分)で公開されているものの他にもう1種類存在しますが、当sukkiri.jpでの配信分に含まれていません。出版社シークレット(CLUB IMPRESS登録特典)に含まれておりますので、読者の方はぜひGetしてみてくださいませ。
今回は、10月に当サイトで配信したシークレットスタンプ3つのまとめ配信で御礼とさせていただきますが、11月からはまた新たにシークレットスタンプを配信して参りますので、お楽しみに!
「遠い目」菅原
「やらかし」湊
「あらあらうふふ」いずみ
クリックするとダウンロードできます。特設サイト記載の条件に従ってご利用ください。
その他、感謝祭特設サイトでは、その他6種のスタンプを配信しています。
10月分「スッキリスト秘話」は毎週金曜日に配信して参りましたが、10月29日はお休みさせていただき、11月分は11月1日(月)から毎週月曜日に配信の予定です。
(11/1 追記) 記事公開しました。 こんにちは、スッキリわかる入門シリーズ著者の中山です。 11月1日を迎え、「あと61日で今年が終わる」という現実をうまく受け入れられず、うなだれていたら午後になってました...。 ですが! 人生つらい ...
スッキリスト秘話(5) JVMくん(ほか) 編