著者ブログ

スッキリスト秘話(8) 岬悠馬&赤城ゆり 編

こんにちは。スッキリシリーズ著者 兼 監修人の中山です。

10月1日からはじまっております「スッキリわかる入門シリーズ10周年記念祭」。前回は、五右衛門さんやキッドさん、レオタード姿の三姉妹1、ホッツェンプロッツさん同様に、よくICPOから追われていそうな雰囲気がするこのふたりでした。

スッキリスト秘話(7) 海藤龍範&草薙峰子 編

こんにちは。この秋、帯状疱疹にかかって右のひたいに大きな赤いあざが残ったのに、全く集中力があがる気配がない、スッキリシリーズ著者の中山です。そういえば、幼い頃マジックで「肉」って書いた時も、あまり強く ...

上記ふたりが先生役となる『スッキリわかるC言語入門』で、生徒役をつとめる次の2名が今回のスッキリストです。

岬 悠馬(22)
株式会社ミヤビリンク
管理本部 人事部付
赤城 ゆり(24)
株式会社ミヤビリンク
管理本部 人事部付

岬悠馬・赤城ゆりの出演作品

あれっ...先週の「出演作品」が1冊だったのに—

「岬悠馬・赤城ゆりの出演作品」に、先週のスッキリスト秘話にはない1冊がわざとらしく加わっていることに気付いたみなさんはお目が高い! そう、みなさまのご愛顧のおかげで、このふたりが出演する『スッキリわかるC言語入門』は、来たる12月14日に第2版が発売されることになったんです!!

「でも初版発売からまだ3年だし、C言語ってそんなに変わってないんじゃない?」って思っちゃたそこのあなた! その通り! ただ、C2Xの仕様策定がより進んだり、GCCやclangに先行実装されたり、MSVCがC17まで一気に対応したりと処理系周りはしっかり進化しているんですよね。

第2版では、そのようなC言語を取り巻く環境の変化に対応しつつ、スッキリスト秘話(7)でご紹介した「C言語の難所を感じさせない攻略アプローチ」をさらに進化させることで、より丁寧に、より楽しく読み進められるようになりました!

え? ・・・たとえば?

あいや、まぁいろいろあるのですが、あんまり普通なのをご紹介しても面白くないですしね...。 せっかく10周年記念祭なんだから、トリビア的なものをご紹介しましょう!  10年間のスッキリの歴史の中で、今回の「スッキリC 第2版」で初めて実現した、史上初の試みはこちらっ!

😱 「なっ、、、なんだってーーーーー!!!」

となるのは、一部の変態的なスッキリシリーズマニアの方だけなはずなので、比較用に初版も載せておきます。

初版

第2版

そうなんです。「倹約家だ。」という海藤さんの発言吹き出しが、第2版では「他人の吹き出しに重ねてある」んです。また、そのためだけに、通常は左⇒右⇒左⇒右という順番で配置されるキャラの顔イラストも、ここだけ逆(右スタート)になってるんですが、これ、過去10年に発売されたシリーズ全14冊、約7,000ページの中で、唯一ここだけなんです! 1

(・・・アホだろ・・・この著者・・・。)

そう確信してしまったあなたの見立ては間違いなく正しい! 正しいんですが...、実はこのセリフ、760ページもある「スッキリC」が成立するために欠かせない、とても重要な役割を担っているんです。

このケch倹約家の女性なしには、『スッキリわかるC言語入門』という本は、この世に生まれることすら許されず、実は執筆中盤には企画自体が潰れる寸前まで追い込まれたことさえあった...今回は、そんな舞台裏をちょっとご紹介します。

『スッキリC』という本は、本来、成立しない。

書籍シリーズ(姉妹書)には、なんらかの共通するアイデンティティがあります。ソレがあるからこそ「シリーズ」なわけですが、「スッキリスト秘話(2)」では、その「スッキリ流解説」の本質とからくりの一部をちょぴっとご紹介しました。

ざっくり要約すると、実は「先生キャラ」ではなく「生徒キャラ」の言動が、解説シナリオの軸と「わかりやすさ」の根源となっているというだけなのですが、

スッキリシリーズは、(特に難所を突破するため)、
学び手が当然に・主体的に感じる「疑問」や「動機」を、
生徒キャラのいずれかが代弁することによって、
学び手が読み進めるための推進力を得る本

ということもできるかもしれません。

たとえば、『スッキリJava』で山場のオブジェクト指向を学び始める第7章では、「こんなもんマスターして、いったい何が嬉しいの?!」という点を徹底的に明確化します。教科書的な答えである「保守性」や「再利用性」を書中で朝香が挙げますが、菅原はそれらが「実務未経験者の場合は動機にならないのではないか」と指摘します。

そして、入門段階の人でも「これはイイ! 学んで、使えるようになりたい!」という動機が提示され、書中キャラクターと読者の方の間で共有されていくわけですが、こここそ、スッキリJavaの「読み進めやすさ」を決定づける部分かなと思います。

オブジェクト指向という道具をマスターし、有効活用できれば、湊くんが夢見るRPG開発はきっと楽しく、素晴らしいものになる(=学び手である自分の未来も、きっと明るいものになる)。そう思えるからこそ、私たちは頑張れるんです。

・・・鋭い方は、もう気付いてしまったかもしれません。そう、

C言語には、ないんです。
「ポインタという山場を乗り越えたいと、
学び手が、素直に、心から思える理由」が。

「iPhoneが18億円する世界」からやってきた言語

私自身がC言語を学んだ30年前、「C言語やポインタをマスターしたいと、入門者が心から思える理由」が世界には溢れていました。そもそもプログラミング言語の選択肢は今ほどありませんでしたし、中でもC言語は「イケてるエンジニアが使い、イケてる学生が学ぶ、最先端の流行言語」でしたから。

そして、「少しでもCPUやメモリを節約して動くエレガントなプログラムを書くために、その実現に不可欠なポインタを習得すること」は、憧れであると同時に、実務的には必須条件でした。

表面にデカデカと「4MB」と書いてある拡張メモリボードを刺したうえで、「LOAD HIGH,UMB」とかいう謎の呪文を唱え、半ば無理矢理OS自体を移動して利用可能なメモリ量を増やす
お父さんが東京出張のついでに、秋葉原で10万円もする「はーどでぃすく」という夢の装置(誇らしげに「70MB」と書いてある2)を買ってかえってきて、その爆速さに大歓声

その他、当時ゲームソフトが大容量化して「100メガショック!!」というキャッチフレーズが流行り、私含め子供たちの間では「すげー!!」と興奮してたんですが、実は100メガビット(=12.5MB)だったという事実を最近知り、渋谷ハチ公前の雑踏で耳にする「マジ、ギガたりなくね?」とかいう何気ない会話をする30年後の同世代に対して謎の敗北感を抱いてしまう自分がいたりするわけですが3

でもまぁ、そういうのが日常ですし、いろいろ節約や工夫しないとろくにプログラムが動かないわけですから、頭良かろうと悪かろうと、人間できてようとできてなかろうと、別に誰にいわれなくたって「メモリやCPUを上手に使いたいな」って自然に思うんです。

実際、現代では32GBのUSBメモリが700円で買えちゃうことを考えると、当時のメモリ1バイトの価値は、今の92,538倍もあったわけで、iPhone13がメモリ部分だけで18億7200万円もしちゃうことを考えれば、まぁ、レビューで先輩に「てんめぇ、ここ値渡しとかしたら300バイト無駄にするだろうが、アホかてめぇは! ポインタもろくに使えねぇのか!」と怒られてもまぁ納得もできたでしょう。

でも、今は、令和なんです。

USBメモリは「32GBで700円」、スマホは「実質1円」、通信料に至っては「1GBまで0円」とか、もう「朝8時までにモデムの回線切り忘れ、数日後にNTTから高額請求書が届いておかんに怒られまくったあの日はなんだったんだ」としか思えない世界に私たちは住んでいます。そんな令和を生きる学び手に、「頑張ってポインタ使えるようになると、メモリを節約できるよ!」なんていっても、こうとしか思えないはずなんですよ。

この30年で、CPUやメモリは劇的に進歩し、値段も安くなりました。しかしそれが故に、C言語について「学ぶ動機を確立することが難しくなってしまった」という意味では、令和の学び手の方が、昭和の学び手よりも、学習時の苦痛を感じやすいし不利になってしまったのです。

彼等は、旧人類である私たちとは、また違う「敵」と戦わなければならない。

だとすれば、その「新たな敵」と戦うための武器を持たせて差し上げたいじゃないですか。

スッキリ史上、最も複雑な使命を背負った女性

とはいえ。

スッキリシリーズとは「学び手の内発的動機」を解説の推進力に使う本なのに、
令和のC言語の学び手には、肝心の難所で内発的動機が生じない。

この致命的な関係性に気付いたのは、スッキリスト秘話(4)にも登場した「お願い編集長っ! Java実践編書かせてっ! C言語もあとでぜったい書くから♥︎」の約束から2年も経った後のことでした。何度原稿を書こうとしても納得いく展開にならず、モヤモヤする思考を整理してこの結論に辿りついたときにはもう絶望しか見えず、まさにこんな感じ。

そんな中、起死回生の再構成プランのため、白羽の矢が立ったのが、赤城ゆりです。

もともと、C言語の「岬と赤城」は、Javaの「湊と朝香」の役割を単純に踏襲する予定だったのですが、彼女に「ドケチ」という悪魔的設定を加えることで、難所のポインタ周辺で節約を指向する発言を行えるようにしました4。それでもまだ動機としては個人的かつ弱いということで、「ハンドル握ると人が変わる5」「負けず嫌い(スルー力弱め)」などの設定が追加され、彼女が草薙の煽りに立ち向かう構図にすることで解説推進力を補助し、海藤・草薙と3人がかりで読者の方が難所を学び進める時の苦痛を抑え込むという役割を担わせています。

赤城ゆりは、『スッキリC』という本来成立しえない本をなんとか成立させるため、スッキリ史上、最も複雑な役割を委ねられてしまったわけですが、結果的に、多様な側面を持つ魅力的な女性として、書中各所で陰に日向に大活躍しながらいろんな表情を見せてくれるキャラクターになったかと思います。

12月発売の第2版の表紙カバーも彼女が飾っていますので、発売の折には、ぜひよろしくお願いします!

スッキリC 第2版の発売案内はこちら

最後までお読みいただいた皆様へのお礼

当記事に登場した「助手席で寝ないで」赤城のスタンプ(No.12)の完全版は、出版社シークレット(CLUB IMPRESS登録特典)に含まれておりますので、読者の方はぜひGetしてみてくださいませ。

前回でsukkiri.jp配信分のシークレットスタンプは全て配信済みとなったため、今回は、11月に当サイトで配信したシークレットスタンプ3つのまとめ配信で御礼とさせていただきます

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「倹約家」赤城

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感謝祭特設サイトでは、その他12種のスタンプを配信しています。

次回スッキリスト秘話(最終回) は、11月29日(月)配信の予定です。

  1. この組版の調整ひとつのために、「あいや、もちょっと右。あ、1/3Lぐらい下げて下さい。」とか、あーでもこーでもないと3回も組版と修正指示を繰り返していたり、いなかったり。
  2. さらに、なぜか無駄に豪華そうな製本マニュアルや、EOSystemっていう格好いいランチャーソフトまでついてくる、関西のおばちゃんもびっくりなオマケ充実感
  3. そう。あれははじめて関東に引っ越してきた春、「短い10両編成が参ります」というアナウンスを駅のホームで聞いたときも感じた、淡いきもち。
  4. 炸裂するのは9章ですが、1章の段階から伏線を張ってあります
  5. 内部の設定集には、「いぬホームズOPのハドソンさんに負けない爆走っぷり」とある

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